人気ブログランキング | 話題のタグを見る

国境の南

先週、2度ばかり外苑界隈を歩く機会がありました。
10数年ぶりに立ち寄った古い喫茶店は代替わりしたのか青年と華奢な女性が
切り盛りしていてかつての女主人の姿は無くて…
その日は一人だったのでカウンターに案内され、店の名が付けられたブレンドを
頼みしばらくの間ぼんやりと時が過ぎていくのを楽しめればそれで良し。
名物の分厚いホットケーキやこの季節には最高の焼きりんごはまたの機会に。

学生の頃はお気に入りの喫茶店がいくつかあって本や音楽を楽しんでいたので
すが、ここ10数年はそんな生活からは程遠くたまに思い出したように古い佇まい
の喫茶店を見つけると緊張しながら入ってみたり。

コーヒーが運ばれて来るまでの時間、カウンターの僕とは反対の端に座る初老
の女性と店の女性が話してる内容についつい耳が反応しました。
・・・ネパールとインドの話をしていたものですから。

スノウリという国境のある場所の名前が会話の中に出てきて、「国境の南側がイ
ンドで…」と店の女性が言っていたのです。
僕自身過去何度かスノウリボーダーを通過したことがあります。
ネパールからインドへ、逆にインドからネパールへ。
でも国境線が東西に延びているのかは考えたこともなかったです。
大まかに言えば北側がネパール、南側がインドといえるだろうなぁ、おぼろげな
世界地図を頭に浮かべて想像してみてそう思いました。

だとしたら…

あのボーダーの街で一泊し、やたらと蚊に刺され、背中は南京虫に吸われ体中
をかきむしりながら早朝ベナレス行きのバスに乗る際に日が昇って来たあの時、
僕は太陽の西に居たことになるのかもしれない。
そんな事を考えてその店のブレンドコーヒーを飲んでタバコをふかして…。

そんな思いつきというか変な記憶を辿りはじめてしまったからその日は帰宅して
納戸の奥のダンボール箱に入っているはずのずいぶん昔に読んだ村上春樹の
小説「国境の南 太陽の西」を探し出して少し読み返してみる気になりました。

僕はこの主人公の絶望感?が好きです。
それは、前に進むためにある種の事柄についてネグレクトしてしまう自分を責め
る絶望みたいな。

主人公はそれなりの確固とした自己を確立した、色々な事に精通した男と描かれ
ている、いわゆる男らしい男と僕は思うのですが、自らを省みる台詞にはなかな
かナイーヴなところがありますし、端から見たら上手く立ち回り成功している部
類で洒落者のよう。

でも自分の運命を受け入れながらも、大人として生きる生活に居心地の悪さを感
じてみたり、かつてのイノセンスを掘り起こしてみたり…若い頃の過ちに対する感
情をどうすることもできないまま心の中に持ちつづけていたり・・・
僕的には、なかなか好感の持てる人物像に仕上がっています。

何故か、12月になると村上春樹を読み返してしまいます。

今年もだいぶ少なくなりました。一息つくのはもう少ししてからです。
by fuji69fes | 2009-12-12 20:23 | more about ...
<< 誰のためのMILE END!俺... 五色の散歩 >>